私達の行く先は天ではなかった。
第参話 本村愛華の場合⑤
放課後、私は図書委員会の仕事兼読書をしに、学校の図書室へ戻りました。今日は担当の人が休みだそうで、代わりに私が務めることになっています。
……とは言っても、担当でなくても私はここに来るので一人になるために仕事を願い出たと言った方が正しいかもしれません。
ここはどこよりも落ち着く場所ですから。
しかし、私はそわつきを隠しきれずにいました。
やはり昼休みに出逢ったあの子のことが気になってならないからです。
あの甲高い大声を聞くと過去の記憶として押し込んでいた嗤い声と重なり動揺するものの、それ以上にあの子の存在は魅力的でなりませんでした。
それも、いつもなら"作業としてでも"没頭できる読書がどこか上の空になるほどです。
ただ、そんな私の気持ちなんて妖精にはわからないのでしょう、センチメンタルな気持ちになれど最後まであの子が来ることはありませんでした。
私は本を数冊借り、スクールバッグを肩にかけ、帰路に着きます。
もうすぐで日が暮れるものの、どこか浮ついていた私は寄り道をして川を見ながら帰ることにしました。
すると、遠巻きになんとあの子が見えました。
紛れもなくレンと名乗ったあの子です!
ベンチに座って麦わら帽子をかぶった茶髪の女性となにやら喋っているみたいですが同じ学校の子なのでしょうか。
あーだこーだと言っているのを見るに、ひょっとするとこの女性も何か力を持った……『能力持ち』というものなのでしょうか。
しかし、なにやら忙しそうで、話に入って疑問を解消する余地はなさそうでした。
私は彼女たちに気が付かれないように更に道を外れて帰りました。
……あの茶髪の女性は夕焼けに映えるなぁだなんて思いながら帰った今日の私はやっぱり少しおかしかったのかもしれません。
本村愛華の場合⑤
2020/05/01 up
2022/06/19 修正